パワハラやセクハラ、長時間残業が原因で退職した場合、「証拠がないと会社都合にならないのでは?」と不安に思う方は多いでしょう。
結論から言うと、証拠がなくても会社都合(会社都合扱い)として認められる可能性はあります。ただし、ハローワークが客観的に判断できる材料が必要です。
この記事では、パワハラやセクハラで退職した場合に失業保険をすぐに受け取る方法、証拠がない場合の対処法、会社が認めない場合の対応まで、実務で役立つ情報を詳しく解説します。
■目次
パワハラ・セクハラで退職した場合の失業保険の扱い
通常、自分から「辞めます」と伝えて退職した場合は自己都合退職となり、2025年4月の法改正後は原則1ヶ月の給付制限期間があります(改正前は2ヶ月)。
しかし、パワハラやセクハラ、長時間残業など「辞めざるを得ない正当な理由」がある場合は、失業保険の区分で「特定受給資格者」として扱われ、会社都合と同じ扱い(会社都合扱い)になることがあります。
つまり、退職の形としては「自己都合」に見えても、ハローワークの判断で失業保険は会社都合と同じ条件で進むことがある、という理解で大丈夫です。
会社都合と特定受給資格者の違い
厳密に言うと、パワハラやセクハラで退職した場合は「会社都合退職(解雇など)」ではなく「特定受給資格者(事実上の会社都合)」として扱われることが多いです。
ただし、失業保険の扱いは会社都合退職と同じで、以下のメリットがあります。
- 給付制限期間がない:7日間の待機期間後、すぐに失業保険が支給される
- 給付日数が長い:勤続年数や年齢によって、自己都合退職より長い期間受給できる
- 国民健康保険料の軽減:自治体によっては保険料が軽減される
この記事では便宜上、「会社都合扱い」「会社都合として認められる」という表現を使いますが、正式には「特定受給資格者」です。
会社都合として認められる「正当な理由」とは
ハローワークで会社都合(特定受給資格者)として認められる主な理由は以下の通りです。
①パワハラ・セクハラ・いじめ
- 上司や同僚からの暴言、暴力、嫌がらせ
- 性的な言動や要求
- 社内での無視や仲間外れ
②長時間残業・過重労働
- 離職の直前6ヶ月間のうちに、時間外労働が月45時間を超える月が連続して3ヶ月以上ある
- 離職の直前6ヶ月間のうちに、時間外労働が月100時間を超える月がある
- 離職の直前6ヶ月間のうちに、時間外労働が連続する2ヶ月以上の平均で月80時間を超えている
③賃金の大幅な減額
- 賃金が従来の85%未満に減額された
- 残業代の未払いが続いている
④労働条件の相違
- 採用時の労働条件と実際の条件が著しく異なる
- 配置転換で通勤時間が片道2時間以上になった(往復4時間以上)
これらに該当する場合、ハローワークで「特定受給資格者」として認定される可能性があります。
証拠がない場合でも認められる?対処法を解説
「証拠がないから無理」と諦める必要はありません。ハローワークは総合的に判断するため、証拠がなくても認められるケースはあります。
ここでいう「証拠」は、裁判のような決定的証拠だけではありません。ハローワークが事実関係を判断する材料(メモ、記録、診断書、第三者の話など)も含みます。
証拠として有効なもの
以下のような証拠があれば、認定される可能性が高まります。
パワハラ・セクハラの場合
- 最も有効:ICレコーダーやスマホでの録音データ
- メールやLINE、チャットの履歴
- 詳細な日時・場所・内容を記録したメモ(日記形式でも可)
- 医師の診断書(うつ病、適応障害など)
- 社内の相談窓口への相談記録
長時間残業の場合
- タイムカードのコピー
- 勤怠管理システムの画面をスクリーンショット
- パソコンのログイン・ログアウト時刻のデータ
- 業務メールの送信時刻
- 自分で記録していた出退勤時刻のメモ
証拠がまったくない場合の対処法
証拠がない場合でも、同僚など「事実を証明できる第三者」がいれば認められる可能性があります。
ハローワークでは、以下のような対応をします。
- まず本人から詳しい事情を聴取
- 会社に事実確認(ただし会社は否定することが多い)
- 第三者(同僚など)から証言を得る
【第三者の証言について】
- 必要人数:ハローワークや事案によって異なります。複数名を求められることが多く、目安として2〜3名とされることがあります。
- 証言方法:書面での証言が基本
- 証言内容:「いつ、どこで、どのようなパワハラを見た・聞いた」など具体的に記載
判定が微妙な場合は、さらに追加で証言者が必要になることもあります。日頃から信頼できる同僚との関係を大切にしておくことも重要です。
証拠集めのポイント
退職する前に準備することが重要です。退職後では証拠を集めることが難しくなります。
- パワハラやセクハラを受けた際は、すぐに録音できるようICレコーダーやスマホを常に携帯する
- 日時・場所・内容を詳細にメモする(手書きでもデジタルでも可)
- タイムカードや勤怠データは退職前にコピーやスクリーンショットを取る
- メールやチャットは印刷またはPDFで保存する
ハローワークでの手続き方法
パワハラやセクハラで会社都合扱いにしてもらうための手続きを説明します。
離職票の退職理由を確認
退職後、会社から離職票が送られてきます。この離職票の「離職理由」欄を必ず確認してください。
多くの場合、会社は「自己都合退職」として処理します。離職理由に異議がある場合は、離職票の「離職者本人の判断」欄にチェックを入れ、具体的な理由を記入しましょう。
ここで重要なのは、離職票の記載=最終決定ではないという点です。会社が自己都合で出していても、ハローワークが事情を確認したうえで区分を判断します。
ハローワークで事情を説明
ハローワークで雇用保険の手続きをする際、以下を行います。
- 窓口で「パワハラ(またはセクハラ、長時間残業)が理由で退職した」と伝える
- 証拠や証言を提出する
- 詳しい状況を聴取される(いつから、どのような内容だったかなど)
ハローワークは本人の話、会社への確認、証拠、第三者の証言などを総合的に判断して、会社都合扱い(特定受給資格者)にするかどうかを決定します。
判定までの期間
ハローワークでの審査には通常2週間〜1ヶ月程度かかります(目安)。会社への確認や第三者への聴取が必要な場合は、さらに時間がかかることもあります。
判定が出るまでの間も、失業認定日にはハローワークに行く必要があります。
会社が認めない場合の対処法
ハローワークが会社に事実確認をしても、会社側はパワハラやセクハラの事実を認めないことがほとんどです。
会社が認めなくても諦めない
会社が否定しても、ハローワークは以下のような総合判断を行います。
- 本人の証言の具体性・一貫性
- 医師の診断書の有無
- 第三者の証言
- 客観的な証拠(録音、メール、タイムカードなど)
会社が認めなくても、これらの材料が揃っていれば会社都合扱いになる可能性は十分にあります。
労働基準監督署への相談を伝える
会社が頑なに認めない場合、「労働基準監督署に相談する」と伝えることが効果的です。
会社に不利な事情がある場合、労働基準監督署の介入を恐れ、あっさりと会社都合退職扱いにするケースもあります。事を大きくしたくないのです。
それでも認められない場合
ハローワークの判定に納得できない場合は、以下の方法があります。
- 雇用保険審査官への審査請求:処分を知った日の翌日から3ヶ月以内
- 労働保険審査会への再審査請求:処分の決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヶ月以内
これらの手続きは少し複雑なので、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 証拠がまったくなくても認められることはある?
A. 可能性はゼロではありませんが、厳しい傾向です。本人の話だけだと、会社が否定した場合に判断が難しくなります。第三者の証言が複数ある、医師の診断書があるなど、判断材料が増えるほど認定の可能性は高まります。
Q2. パワハラで体調を崩して通院している。診断書は有効?
A. 非常に有効です。「うつ病」「適応障害」などの診断書があり、業務との因果関係が示されていれば、会社都合として認められやすくなります。診断書には「業務上のストレスが原因」などの記載があると理想的です。
Q3. 残業時間が何時間以上なら会社都合になる?
A. 明確な基準はありませんが、以下が目安です。
- 離職直前6ヶ月のうち、連続する3ヶ月で月45時間を超える時間外労働
- 離職直前6ヶ月のうち、いずれかの月で月100時間を超える時間外労働
- 離職直前6ヶ月のうち、連続する2ヶ月以上で月平均80時間を超える時間外労働
これらに該当すれば、会社都合として認められる可能性が高いです。ただし、タイムカードなど客観的な証拠が必要です。
Q4. セクハラで退職した場合も会社都合になる?
A. はい、セクハラも会社都合(特定受給資格者)として認められます。パワハラと同様に、録音データやメール、第三者の証言などが証拠になります。セクハラは被害者が声を上げにくいため、できるだけ記録を残しておくことが重要です。
Q5. 離職票に「自己都合」と書かれているが、ハローワークで変更してもらえる?
A. はい、変更可能です。離職票の退職理由は会社が記入しますが、ハローワークが最終的に判断します。離職票の「離職者本人の判断」欄に異議を記入し、証拠とともにハローワークで説明すれば、会社都合に変更してもらえる可能性があります。
Q6. 会社に退職理由を「一身上の都合」と書いてしまった。もう会社都合にはならない?
A. 諦めないでください。退職届に「一身上の都合」と書いていても、ハローワークで実際の退職理由を説明すれば、会社都合として認められる可能性はあります。退職届の文言よりも、実際の退職理由(パワハラの事実など)が重視されます。
Q7. すでに退職してしまったが、今から証拠を集められる?
A. 難しいですが、可能性はあります。退職後でも、以下のような証拠は集められる場合があります。
- 通院していた場合は医師の診断書
- 自分のパソコンやスマホに残っているメールやチャット
- 同僚に証言をお願いする(退職後でも連絡が取れる場合)
- 自分で記録していたメモや日記
ただし、やはり退職前に準備しておくことが最も重要です。
まとめ
パワハラやセクハラ、長時間残業で退職した場合、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 会社都合(特定受給資格者)として認められれば、給付制限なしで失業保険を受給できる
- 証拠がなくても、第三者の証言や診断書があれば認められる可能性がある
- 会社が認めなくても、ハローワークが総合的に判断するので諦めない
- 退職前に証拠を集めておくことが最も重要
- 労働基準監督署への相談を伝えることも有効
決して泣き寝入りしないでください。正当な理由があれば、きちんと主張することで会社都合として認められる可能性は十分にあります。
不明な点があれば、ハローワークの窓口で詳しく相談してみましょう。ハローワークの職員は親身になって対応してくれます。