専門実践教育訓練は、看護師や介護福祉士などの国家資格取得を目指す方が、年間最大64万円の学費補助と失業保険(基本手当)に連動した生活費の給付を受け取りながら学べる制度です。
2014年10月から始まったこの制度は、退職後に専門学校や看護学校に通いたい方にとって非常に有利な制度ですが、「失業保険と併用できるのか」「実際にいくらもらえるのか」「自分は対象になるのか」といった疑問を持つ方が多いのが実情です。
この記事では、専門実践教育訓練の仕組みから失業保険との併用方法、具体的な金額、申請手続きまで、2026年時点の最新制度に基づいてわかりやすく解説します。
■目次
専門実践教育訓練とは
専門実践教育訓練とは、中長期的なキャリア形成とすぐに就職に活かせる能力の習得を目的とした教育訓練制度です。主に国家資格取得を目指す講座が対象となります。
専門実践教育訓練の3つの大きなメリット
この制度の最大の特徴は、以下の3つの給付が受けられる点です。
- 学費の補助:最大80%支給(年間最大64万円)
- 生活費の補助:教育訓練支援給付金(基本手当日額の60%)※2025年3月31日までに受講開始した場合は80%
- 失業保険:受給要件を満たせば、受講中でも基本手当を受給可能(ただし教育訓練支援給付金とは同時に受け取れません)
退職後に専門学校に通う場合、この3つを組み合わせることで、最大500万円~600万円規模の給付を受けられる可能性があります。
対象となる講座
専門実践教育訓練の対象講座は、厚生労働大臣が指定したコースに限られます。講座期間は3ヶ月から3年と幅広く、主に以下のような資格取得を目指す講座が含まれます。
【主な対象資格】
看護師、准看護師、保育士、美容師、理容師、栄養士、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、歯科衛生士、はり師、柔道整復師、助産師など
その他、以下のような講座も対象です。
- 業務独占資格・名称独占資格の取得を目標とする養成施設の課程
- 専門学校の職業実践専門課程
- 専門職大学院
- 職業実践育成プログラム
- 情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程
- 第四次産業革命スキル習得講座
- 専門職大学・専門職短期大学・専門職学科の課程
現在の対象講座は、厚生労働省の検索システムで確認できます(掲載情報は随時更新されます)。
◆厚生労働省(講座検索システム)
教育訓練給付制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム
職業訓練との違い
専門実践教育訓練は、ハローワークが実施する無料の職業訓練(公共職業訓練・求職者支援訓練)とは別の制度です。名前が似ているため混同されがちですが、目的・対象者・費用・受けられる給付の内容が大きく異なります。
【制度の目的の違い】
無料の職業訓練は、比較的短期間で就職に結びつけることを目的とした制度です。一方、専門実践教育訓練は、国家資格などの取得を通じて中長期的なキャリア形成を行うことを目的としています。
【費用と給付の違い】
職業訓練は受講料が原則無料ですが、生活費の支援は限定的です。これに対し、専門実践教育訓練は専門学校などの有料講座に通い、後から学費の一部が給付される仕組みになっています。さらに条件を満たせば、失業保険や教育訓練支援給付金による生活費の支援も受けられます。
【対象者と受講形態の違い】
職業訓練は主に離職者向けの制度ですが、専門実践教育訓練は在職中・離職後のどちらでも受講可能です。そのため、働きながら資格取得を目指したい人や、退職後に腰を据えて学び直したい人の両方に対応しています。
まとめると、短期間・無料で就職を目指すなら職業訓練、時間と費用をかけて国家資格などを取得し、将来の安定した職業につなげたいなら専門実践教育訓練という位置づけになります。
失業保険との併用方法
「失業保険をもらいながら専門学校に通えるのか」という疑問が最も多く寄せられます。結論から言うと、失業保険と専門実践教育訓練は併用可能です。
ただし、失業保険(基本手当)は本来「求職活動をして就職する意思がある」ことが前提です。専門実践教育訓練を受けながら受給する場合も、ハローワークで事前に受講の手続きを行い、指示された方法で失業認定を受ける必要があります。迷う場合は、受講開始前の段階で必ずハローワークに確認してください。
受け取れる給付金の種類と順序
退職後に専門学校に通う場合、受け取り方は次の3つです(「同時に受け取れるもの/受け取れないもの」がある点が重要です)。
【受給の流れ(考え方)】
- 失業保険(基本手当):退職後、受給要件を満たせば受給(教育訓練受講の特例により給付制限がなくなるケースあり)
- 教育訓練支援給付金:失業保険終了後に受給(基本手当日額の60%、45歳未満のみ)
- 専門実践教育訓練給付金:受講中に6ヶ月ごとに申請し、学費の一部が支給される
失業保険と教育訓練支援給付金は同時には受け取れません。まず失業保険を受給し、それが終了してから教育訓練支援給付金を受け取る流れになります。
一方で、専門実践教育訓練給付金(学費補助)は受講中に6ヶ月ごとに申請するため、タイミングによっては失業保険の受給期間と重なって支給申請をすることもあります(どの期間が対象になるかは学校の領収書・証明書類とあわせて確認します)。
具体例:3月末退職→4月から専門学校の場合
教育訓練を受講する場合、2025年4月以降の制度では自己都合退職であっても給付制限(待機期間後の支給保留期間)が解除されます。
※通常の自己都合退職では給付制限が「1ヶ月」ありますが、教育訓練受講者の特例により「給付制限なし(0ヶ月)」になる、という整理です。
【4月】
・4月1日:専門学校入学
・4月中旬:失業保険の手続き(7日間の待期期間のみ)
【4月下旬~7月下旬】
・90日間の失業保険をすぐに受給開始(給付制限なし)
【7月下旬以降】
・失業保険終了後、2ヶ月ごとに教育訓練支援給付金を受給(失業保険の60%)
【10月】
・4月~9月分の学費に対する給付金(50%)を受給
・以降、6ヶ月ごとに学費の給付を受ける
このように、失業保険→教育訓練支援給付金→学費補助の3つを組み合わせることで、学校に通いながら生活費と学費の両方をカバーできます。
実際にいくらもらえるのか
「結局いくらもらえるのか」は、最も気になるポイントです。ここでは具体的な金額例を示します。
3年間の看護学校に通う場合の試算
以下の条件で計算してみます。
- 年齢:30歳
- 退職前の月給:30万円
- 学校:3年制の看護学校(学費年間90万円)
- 失業保険:自己都合退職で90日分
【①専門実践教育訓練給付金(学費補助)】
学費の50%が支給されます(年間上限40万円)。
90万円 × 50% = 45万円ですが、上限40万円が適用されます。
3年間:40万円 × 3年 = 120万円
さらに、資格取得後1年以内に就職すれば追加で20%(年間上限16万円)が支給されます。
3年間:16万円 × 3年 = 48万円
※なお、受講後に賃金が上昇した場合はさらに10%が追加されますが、ここでは確実性の高い70%で計算します。
学費補助の合計:168万円
【②教育訓練支援給付金(生活費補助)】
月給30万円の場合、失業保険(基本手当)は1日あたり約5,900円です。
2025年4月以降に受講開始する場合、教育訓練支援給付金はその60%なので、1日約3,540円です。
失業保険90日を受給した後、残り約2年9ヶ月分を受給できます(支給は2ヶ月ごとの認定で行われます)。
3,540円 × 約1,005日(2年9ヶ月) = 約355万円
【③失業保険(基本手当)】
5,900円 × 90日 = 約53万円
【合計】
168万円(学費) + 355万円(生活費) + 53万円(失業保険) = 約576万円
学費の総額270万円(90万円×3年)を差し引いても、実質的に約300万円以上の生活費を受け取りながら資格取得を目指せます。
45歳以上の場合
教育訓練支援給付金は45歳未満の方のみが対象です。45歳以上の方は、失業保険と学費補助のみの受給となります。
上記の例では、失業保険53万円 + 学費補助168万円 = 221万円の受給になります。
専門実践教育訓練給付金の詳細
専門実践教育訓練給付金は、学費を補助する制度です。受講中と修了後に分けて支給されます。
支給対象者の要件
以下のすべてに該当する方が対象です。
【雇用保険の加入期間】
原則として3年以上の雇用保険加入期間が必要です。ただし、初めて教育訓練給付を受ける場合は、当面の間2年以上で対象となります。「2年以上」は初めて専門実践教育訓練給付金を受ける場合の特例です。2回目以降は原則として3年以上の雇用保険加入期間が必要です。

転職している場合でも、前職の退職日と次の就職日の間が1年以内であれば、雇用保険加入期間を合算できます。

【退職者の場合の注意点】
会社を退職して受講する場合、離職日の翌日から受講開始日までが1年以内である必要があります。
※出産・育児等で延長手続きをしていた場合は最大20年以内
※受講開始日とは開校日のこと(通信制の場合は教材の発送日)
【過去に教育訓練給付を受けた場合】
過去に教育訓練給付金を受給したことがある場合、その受講開始日から3年以上経過していないと新たな給付を受けられません。
支給額
専門実践教育訓練給付金の支給率は以下の通りです。2024年10月の制度改正により、条件を満たせば最大80%まで拡充されました。
【受講中の支給】
教育訓練経費の50%(年間上限40万円)
【修了後の追加支給】
資格取得後、修了日の翌日から1年以内に就職した場合、さらに20%追加(年間上限16万円)
【賃金上昇時の追加支給(2024年10月新設)】
さらに受講後の賃金が受講前と比較して5%以上上昇した場合、10%追加(合計最大80%)
【合計】
最大で教育訓練経費の70%~80%(年間上限最大64万円、3年間で最大192万円)
※教育訓練経費が4千円以下の場合は支給されません
※関連資格が存在しない講座の場合、追加支給の条件は不要
教育訓練経費に含まれるもの
教育訓練経費とは、教育訓練実施者に支払った入学料と受講料の合計です。
【含まれるもの】
- 入学料
- 受講料(授業料)
【含まれないもの】
- 検定試験の受験料
- 受講のための交通費
- パソコン購入費
- 教科書代(受講料に含まれていない場合)
支給のタイミング
専門実践教育訓練給付金は、6ヶ月ごとに支給申請を行います。
例えば4月1日に受講開始した場合、最初の支給申請は10月1日~10月31日の間に行います。この時に4月~9月分の学費に対する給付金を受け取ります。
修了後の追加給付(20%分)は、就職した日の翌日から1ヶ月以内に申請が必要です(就職自体は「修了日の翌日から1年以内」が条件です)。
再受講時の注意点
過去に専門実践教育訓練給付金を受給し、再度受講する場合、10年を経過するまでは上限額168万円の範囲内でしか受給できません。
例えば、最初の受講で168万円を受け取っている場合、5年後に再受講しても追加で受給することはできません。
教育訓練支援給付金の詳細
教育訓練支援給付金は、失業保険終了後も生活費として給付金を受け取れる制度です。
この制度は2025年3月で終了予定でしたが、法改正により2027年(令和9年)3月31日まで延長されました。
支給対象者の要件
以下のすべてに該当する方が対象です。
- 専門実践教育訓練を修了する見込みがあること
- 受講開始時に45歳未満であること
- 受講する専門実践教育訓練が通信制・夜間制でないこと
- 受講資格確認時に雇用保険に加入していないこと(退職者であること)
- 会社などの役員に就任していないこと
- 自治体の長に就任していないこと
- 今回の受講で既に教育訓練支援給付金を受けたことがないこと
- 過去に教育訓練給付金を受けたことがないこと(平成26年10月1日前は除く)
在職者は対象外です。あくまで退職後に専門学校に通う方のための制度です。
支給額(受講時期による違い)
制度改正により、受講開始時期によって支給率が異なります。
- 2025年(令和7年)3月31日までに受講開始:基本手当日額の80%
- 2025年(令和7年)4月1日以降に受講開始:基本手当日額の60%
これから受講する方は基本的に失業保険(基本手当)日額の60%となります。
【計算例】
離職前の平均月給が30万円の場合、失業保険日額は約5,900円です。
教育訓練支援給付金:5,900円 × 60% = 約3,540円/日
受給期間
教育訓練が修了するまで給付を受けることができます。3年制の専門学校の場合は最大3年間です。
ただし、失業保険の受給期間中は支給されません。失業保険が終了した後から支給開始となります。
また、失業保険の受給資格があるにも関わらず手続きをしなかった場合でも、離職から1年間は教育訓練支援給付金は支給されません。必ず失業保険の手続きを行ってください。
出席率の重要性
教育訓練支援給付金は、原則として欠席した日は支給されません。
さらに重要な点として、連続する2ヶ月の出席率が80%に満たなかった場合、それ以降は一切支給されなくなります。
支給額が大きい分、出席要件も厳しくなっています。1日も休まない気持ちで訓練に臨む必要があります。
申請手続きの流れ
専門実践教育訓練給付金と教育訓練支援給付金の申請手続きについて説明します。
受講開始前の手続き(重要)
受講開始日の1ヶ月前までに、必ずハローワークで手続きを完了させる必要があります。
【手続きの流れ】
- 訓練対応キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを作成
- 「教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票」とジョブ・カードをハローワークへ提出
【訓練対応キャリアコンサルティングとは】
ハローワーク等の訓練担当キャリアコンサルタントと面談し、ジョブ・カードを作成することです。
ジョブ・カードは、今後のキャリアプランをまとめた国の定めたフォーマットで、履歴書や職務経歴書に近いものです。面談は1~3回程度行われます。
※在職者の場合、勤務先の事業主から専門実践教育訓練の受講承認を得て証明した場合は、キャリアコンサルティングを受けなくても構いません
受講前の提出書類
- 教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票
- ジョブ・カード
- 本人・住所確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- マイナンバー確認書類
- 雇用保険被保険者証(雇用保険受給資格者証でも可)
- 写真2枚
- 銀行の通帳またはキャッシュカード
受講中・受講後の手続き
【専門実践教育訓練給付金】
6ヶ月ごとに支給申請を行います。
【教育訓練支援給付金】
2ヶ月ごとに認定日にハローワークで申請を行います。
自分が対象者かどうかの確認方法
「自分が支給要件を満たしているか」は、ハローワークで照会できます。
「教育訓練給付金支給要件照会票」に必要事項を記入し、住所管轄のハローワークへ本人来所、代理人、または郵送で提出します。
※電話による照会は個人情報保護の観点から行えません
よくある質問
在職中でも専門実践教育訓練給付金は受けられますか?
はい、受けられます。専門実践教育訓練給付金(学費補助)は在職者も対象です。ただし、教育訓練支援給付金(生活費補助)は退職者のみが対象です。在職中の方は学費補助のみ受給できます。
教育訓練給付金と教育訓練支援給付金の違いは何ですか?
教育訓練給付金は学費の補助(6ヶ月ごとに受給)、教育訓練支援給付金は生活費の補助(2ヶ月ごとに受給)です。どちらも専門実践教育訓練に関する給付金ですが、目的と支給方法が異なります。
失業保険をもらわずに専門学校に通った場合、教育訓練支援給付金は受けられますか?
失業保険の受給資格があるにも関わらず手続きをしなかった場合、離職から1年間は教育訓練支援給付金は支給されません。必ず失業保険の手続きを行ってください。
専門学校を途中で辞めた場合、返還しなければなりませんか?
既に受け取った給付金について返還義務はありません。ただし、それ以降の給付は受けられなくなります。また、教育訓練支援給付金は出席率80%未満になると以降の支給が停止されます。
夜間や通信制の専門学校でも受けられますか?
専門実践教育訓練給付金(学費補助)は受けられます。ただし、教育訓練支援給付金(生活費補助)は通信制・夜間制は対象外です。
アルバイトをしながら受講できますか?
教育訓練支援給付金を受給する場合、原則として就労はできません。アルバイトをする場合は、失業保険の受給ルールと同様に、週20時間未満かつ短期的な就労に限られます。就労の扱いは個別事情で判断されるため、必ず事前にハローワークに確認してください。
育休中でも専門実践教育訓練給付金は受けられますか?
育休中の方も雇用保険の加入要件を満たしていれば受給できます。ただし、育休中は教育訓練支援給付金(生活費補助)の対象外です。
まとめ
専門実践教育訓練は、退職後に国家資格取得を目指す方にとって非常に有利な制度です。
【この制度の重要ポイント】
- 学費の50~80%(年間最大64万円)を補助
- 45歳未満なら失業保険の60%を生活費として受給可能(2025年4月以降)
- 失業保険と併用できる(教育訓練受講なら給付制限なし)
- 3年間で最大500万円~600万円の給付も可能
- 在職中でも学費補助は受けられる
【注意すべき点】
- 受講開始日の1ヶ月前までに手続きが必要
- 厚生労働大臣指定の講座のみが対象
- 雇用保険加入期間2年以上(初回)または3年以上が必要
- 教育訓練支援給付金は45歳未満のみ
- 出席率80%未満で支給停止
まずは自分が対象者かどうかをハローワークで確認し、受講したい学校が指定講座になっているかを確認することが第一歩です。
制度の詳細や最新情報については、必ず住所管轄のハローワークに相談してください。